太陽には届かない
吉田はドリンクホルダーからポカリを取り出し、“飲めよ”と陽菜に勧める。

半年近く前に陽菜が会社まで呼び出されたカオリのミスの時といい、今といい、吉田は男らしいというか、気が利くというか、こんなヤツが彼氏だったら楽だろうなと思わせる所があった。

それでも陽菜と吉田が10年以上互いを好きにならないのは、お互いを知りすぎているせいだろうと思う。陽菜が大学在学中の4年間はほぼ音信不通だったものの、高校時代のお互いの想い人を知っているし、犯した罪のようなものや、失敗も知っている。

だから陽菜は、吉田を兄弟のように思っていた。

吉田もそれは同じで、(女好きの)吉田曰く“おれは、女の中で友達だと思えたのはお前が初めて”だそうだ。つまり、私以外の女はみんな、恋愛対象になるってこと?と、当時の陽菜は息巻いて抗議したが、そういうわけではないらしい。

陽菜は吉田の勧めてくれたポカリを素直に受け取ると、蓋をひねり一口飲んだ。


『で、今日はどちらへ?』


少し嫌味を含ませながら、陽菜は吉田の顔を見る。


『何をお召し上がりになりたいですか、お姫様?』


と、吉田は皮肉を含ませて返す。まさか、そんな風に言葉を返してくるとは思わなかったし、その表情があまりにおかしかったので、陽菜は大笑いした。


『あんたやっぱりサイコーだわ。面白い!』


陽菜が必要以上に笑い続けるので、吉田は少し困惑した表情になる。それを見た陽菜は


『ごめん、ごめん。こんな風にリラックスして誰かと出かけるなんて久しぶりだから』


と謝り


『吉田が呼び出したんだから、今日は吉田のリードで頼んます。』


と続けた。

吉田は呆れたようにため息をつくと、アクセルを踏み込み、バイパスへと続く道に入った。
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