太陽には届かない
『うーん…どうなのかな、私には分からないけど…。』


陽菜が言葉を濁すと、吉田は何かを察知したらしい。その脳裏に浮かんだ想像を陽菜にぶつける。


『オマエ…まさか!』


吉田があまりに驚いた顔で陽菜を見るので、陽菜は目を逸らせずにいた。


『まさかって何よ。』


平静を保つ。それも10年以上付き合いのある吉田の前では無意味だ。


『オマエ、良平と何かあっただろ。』


吉田が、疑問系ではなく肯定的な言い方をしたことに驚いた。


『何もないよ、何もない。』


意味もなく、2回否定の言葉を繰り返す。


『嘘つけよ、オマエ分かりやすいんだよ!』


どうやら吉田も動揺しているらしい。自分の想像が当たっているかもしれないことに、興奮しているようにも見える。


『まぁ、いいじゃん。その話は。』


陽菜はあいまいに笑って、この話を終わりにしたかった。


『林さんてさぁ~、何かおいしいトコだけ持ってく人だよな。何かあったじゃん、ことわざでさぁ…二人がケンカしてる横から、獲物を持ってくとかってヤツ。』


吉田がことわざだなんて、何だか笑える。


『ああ…漁夫の利?』


『そうそう。あの人、絶対自分のこと言わねぇのな。そのくせ、人の事には首突っ込んできて、興味深々なの。』


めずらしい、吉田が人の悪口言うなんて。


『そうだね…。』


陽菜は一言だけ相槌を打って、吉田のくれたポカリをゴクゴクと飲み干した。

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