太陽には届かない
何も考えずに、ただひたすら進む。

多少洋服が重たかったが、泳ぎは得意だったし、薄手のワンピースは大して邪魔にはならない。

水深1メートルほどのところで止まり、横になると、陽菜の体はプカリと浮いた。


『気持ちいー…』


太陽が少しまぶしかったが、フワフワと浮かぶようにして波に揺られるのは気持ちがいい。

吉田が何か叫んでいるのが聞こえたが、陽菜は無視して目を閉じる。

雑音が消え、聞こえるのは水の音だけ。シンと静まり返ったその静寂に、良平との一夜を思い出す。

あれは間違いなく、陽菜の一生の中で一番の事件だった。

少なくとも今まで生きてきた中では。

付き合ってもいない男に抱かれるなんて、陽菜の貞操観念にはなかったし、まさか良平ほどの男が、陽菜に手を出すなんて考えてもいなかった。

でも、陽菜の信頼する吉田の話を聞く限り、良平が陽菜に本気だとは到底思えない。

良平より3つ年上の陽菜。それよりさらに年上のカオリ、そして後輩の由梨はもちろん陽菜よりも年下だ。

もし、良平が3人共に手を出していた、もしくは出そうとしていたら、それはとんでもない事で、陽菜にとっては屈辱以外の何モノでもない。そして、良平の貞操観念を疑う。一体何様のつもりなのか。

そして陽菜は恐れていた。

良平を。

裏切られることを、何よりも恐れていた。

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