太陽には届かない
ザブン…

微かに違う波音に、陽菜は目を開ける。

そこには吉田の顔があった。

陽菜は体を起こすように立ち上がる。


『オマエ、いくらなんでもやりすぎ。』


吉田の(今日何度目だか分からない)呆れ顔に、陽菜は愛想笑いをする。


『気持ちいいよ、吉田も一緒にやる?』


『やらねぇよ、ホレ、行くぞ!』


吉田に促され、しぶしぶと陸に向かって歩き出す。

吉田の背中を見ながら、陽菜はふと思う。

きっと良平は、吉田が陽菜を思うよりも、陽菜の事を思ってはいないだろう。

そして、こうして吉田と二人で季節はずれの海に来たことを知っても、何一つ動じたりしないだろう。

陸に上がると、少しかがんで、ずぶぬれのスカートを絞る。


『陽菜、オマエ明日何かあんの?』


『明日…?日曜日でしょ?特に何もないけど?』


頭の上から聞こえてくる声に、目もくれずに返事をする。


『じゃあ、今日どっか近くに泊まっていかね?』


陽菜は一瞬絶句する。今日の吉田はやっぱりどこかおかしい。陽菜以外の女性が聞いたら、誘っているんじゃないかと勘違いするようなセリフをサラリと吐く。


『吉田…私、一応女なんだけど?』


陽菜が女である事を忘れているのではないかと、思わず不安になった陽菜は吉田に疑問をぶつける。


『…なんで?知ってるけど?』


『にしては、随分サラリと誘うじゃないのよ。私以外の女の人が聞いたら、絶対誘ってると思われるよ…。』


今度は陽菜が呆れ顔をする番だった。

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