太陽には届かない
-翌朝


『やっばい!!』


いつもの時間に起きたものの、昨晩なんの支度もせずに寝てしまった陽菜は、ちょっとしたパニックになっていた。

カバンは出かけた時のままバラバラになっていたし、髪の毛も洗っていない。携帯電話の充電も切れていたし、洗濯物も1週間分が出しっぱなしだった。

いつもは寝起きが悪く、ブツブツ言いながら支度をする陽菜も、今日ばかりはそんな不満を言うヒマもなく、部屋の中をバタバタと駆け回る。

朝ごはんを諦めることで、何とか会社に間に合う最後の電車に乗る事が出来た。

駅から全速力で走り、オフィスへと駆け込む。

タイムカード代わりの社員証を、レコーダーに通した時刻は、ぎりぎり8時58分だった。


『おはようございまーす!』


由梨がまた、薄笑いを浮かべながら近づいてきた。

陽菜が返事をする間もなく


『陽菜さん、今日はまたどうしたんですかぁ?めずらしいですね、いつも月曜の朝は早いのに。昨日何かありました?』


探りを入れてくる。


『昨日ちょっと、支度しないで寝ちゃって。』


陽菜はデスクに手帳やら携帯やらを出しながら由梨の相手をする。


『ホントですか?陽菜さんにしては抜けてますね。彼氏さん、来てたとか?』


『来てない、来てない。あの人滅多にこっち来ないから。本当にただ、支度忘れてただけ。』


“そうなんですかー”と言いながら由梨が視線を落とした先に陽菜の携帯があった。由梨は目ざとく、携帯についた新しいストラップを見つけた。
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