太陽には届かない
『あー、かわいいですよね、これー。高速のサービスエリア限定なんですよねぇ!どっか行ってきたんですか?』


本当に目ざといというか、他人のものをよく見ているというか…。人のプライベートに土足で踏み込んでくる由梨に少し腹が立ってくる。


『ヒミツ。まぁいいじゃない!それよりこないだの伝票、記入漏れあったよね?先方から訂正伝票のFAX来てたの?』


『あ、それなんですけど…』


陽菜が仕事モードに持っていくと、由梨は今まで話していたことなどケロッと忘れたかのように、仕事の話を始める。

由梨は仕事に対してはまじめなのだ。デキるかデキないかは別としても。


『おはようさんでーす』


ひときわ大きな声でオフィスに入ってきたのは、吉田だった。わき目もふらずに陽菜に近づいてくる。


『オイっす、起きれた?』


『オイッス、起きれたけど、超ギリ!』


青春ごっこをした後に、こうして会社で会うのはものすごく照れくさい。それは吉田も同じようで、頭の後ろをポリポリ掻きながら下を向いている。


『そっか。じゃあさ、後で俺のほうに来てくんない?進行具合とか色々、ちょっと見てもらいたいからさ。』


『わかった、でも午前中は忙しいと思うから、午後イチでそっちに行くわ。課長にも一言言っておいて。“相沢借ります!”って。』


吉田はうなづくと、そそくさとオフィスを出て行く。

途端に由梨の気配がする。どうやらこのやり取りも、由梨の興味の対象らしい。


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