太陽には届かない
月曜の朝は忙しい。

前週一週間分の伝票をチェックし、打ち込み、確認する。こんな仕事誰にだってできる!と思うような作業が続き、あっという間に昼休みになる。

陽菜はゲンナリしながら、カフェでBLTサンドを食べて戻る。毎週月曜日は、休み明けということもあって、憂鬱だ。

午後は吉田と約束があったことを思い出し、吉田のいる部屋へ向かう。


『失礼しまーす。』


挨拶をしながら入っていくと、ほぼ全員の視線がこちらに向く。

最近はそうでもないのだろうが、いまだにSEの仕事は男性が多いような気がする。少なくとも吉田の会社はそうだったし、このプロジェクトチームにも女性はいない。だから皆、女性の声がするとパブロフの犬のような反応を見せるので、その度に陽菜は笑いをこらえる。

しかも、一日中パソコンに向かっているせいか、目は充血して髪の毛はボサボサ、疲れた顔をしているメンバーが多い。

吉田はまだマシなほうだ。


『すいませーん、吉田さんは?』


近くにいた若手に、吉田の居場所を聞く。


『あぁ、吉田さんちょっと遅れて昼行ったから。あと30分くらいで帰ってくると思うけど…あっ、あそこに有田いるから、聞いてみてもらえます?』


『はーい、どもです。』


奥に良平の姿が見える。何やら一生懸命ノートに書き込んでいて、その真剣な表情にしばし見とれた。と同時に、ドライブで吉田がもらした“カオリお持ち帰り事件”のことや、“由梨と食事”の情報が頭をかすめる。それを振り払うように陽菜はブルブルと頭を振ると、近くに寄って、小声で良平の名前を呼ぶ。不安をかき消すように。


『リョウちゃん。』


良平と関係を持つようになって、陽菜は良平のことをそう呼ぶようになっていた。


『陽菜さん。』


良平も陽菜のことを、皆がそうするように名前で呼ぶようになっていた。もちろん二人きりの時だけだ。


『吉田、ご飯なんでしょ?私の仕事、何か言い付かってない?』


『いや、特には…。陽菜さん今日こっち?』


『うん。吉田に呼ばれた。何か問題あんのかな?進行状況見て欲しいって言われて。』


その言葉に良平は思い出したように“あぁ!”と叫んだ。


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