太陽には届かない
良平は本当に可愛い。陽菜が良平の知らない事を教えるときの驚いた表情や、好きな映画を語るときの楽しそうな顔、陽菜にキスをねだる時の甘えた顔…表情がクルクル変わる。

陽菜はそんな良平にどんどんハマっていた。

もちろん泰之の事も愛してはいたが、付き合って3年以上も経つと、新鮮味が薄れてしまう。遠距離のせいもあるのかもしれない。

自分のしている事は、道徳的に許されないことだと分かっている。泰之をひどく傷つけ、裏切る行為であることは、嫌というほど感じていた。

ただ陽菜は、何度も同じ言い訳を自分自身にする。泰之のことも、良平のことも大事なのだと。失いたくないのだと。


『相沢!!』


オフィスに入るやいなや、課長の怒声が聞こえる。


『あっ、ハイ。おはようございます、課長。』


課長の表情は険しい。陽菜は二日酔いで鈍る思考回路をフルに働かせて、その理由を考える。課長のデスクには、「重要」と「社内秘」と印の押された書類がおかれている。


『おはようございますじゃないよ、お前。開発中のシステムの件、お前に任せたはずだったな?』


『はい。』


『今までの経過報告書、打ち合わせ内容、資料、全部手元にあるな?』


『はい、もちろんです。』


その答えに、課長の表情が少しだけ緩む。


『問題発生だ。たった今、開発室の吉田くんから報告が入った。昨日、開発室に何者かが侵入したらしい。もしくは内部の者による犯行かもしれない。開発室は今大騒ぎになってるよ。』


『えっ?どういうことですか?』


『パソコンのハードディスクに傷をつけられたらしい。バックアップしてあったデバイスも全てダメになっているそうだ。開発室にある打合せ記録のデータも全部消えている。』


陽菜は絶句した。もしそれが本当だとすれば、吉田や良平達が今までやってきた仕事は、一からやり直しということになる。
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