太陽には届かない
陽菜はあわてて自分のデスクを開ける。

ない!!

陽菜が記録しておいた書類が全てなくなっている。


『課長…私の保管してあった書類もありません…。』


課長の顔が青ざめる。しかし陽菜は、カバンから鍵を出すと、机の一番上の引き出しを開け、中を確認する。よかった、ここは荒らされていない。

机の奥の箱を取り出し、中からメモリーチップを取り出すと、パソコンに繋いで内容を確認する。


『よかった…万が一と思って取ってあったバックアップメモリは無事みたいです…。』


課長の顔が、いくらか和らぎ、陽菜の緊張もいくらか緩和される。

陽菜はそのメモリを持って、吉田のいるオフィスへと向かった。




オフィスはさながら戦場だった。

吉田の怒号が飛び、良平もその他のメンバーもせわしなく動いている。


『吉田!!』


振り向いた吉田は、鬼のような形相で振り返るが、陽菜の姿を見て、ハッと我に返ったように作り笑顔をする。


『バックアップ!!こないだチェック入れたときに取っておいたの!これあったら、途中までは回復できるでしょ?アンタなら。』


陽菜がメモリを渡すと、吉田の表情がみるみる緩む。


『陽菜!!お前天才だよ!!よくやった!ありがとう!!』


吉田は嬉しさのあまりか、陽菜をギュっと抱きしめる。男泣き寸前なのだと陽菜には分かった。


『わかった、わかった。』


陽菜はまるでお母さんのように、吉田の背中を叩くと、その体から離れた。


『わかったから、あんまり人に誤解されるようなコトはしないでよね。』


陽菜が冗談ぽく怒ると、吉田は陽菜の背中を思いっきり叩く。そして


『まぁ、良平に少しヤキモチでも焼かせとけよ。』


と小さく耳元でささやいた。
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