触れないキス
「そんな……!」


そんなこと、あるわけない……!!


だって、今の今まで一緒にいたんだよ!?

そらの姿も、さっき私の名前を呼んでくれた声も、

たまに見せる笑顔も、全部しっかり覚えてる。

二人で過ごした時間も、そらが描いていた絵だって……!


「瑛菜!?」


私は咄嗟に駆け出し、さっきそらが立て掛けていたポスターを手に取る。


「──っ……!」


そこに描かれていたのは、

綺麗で、儚い、人魚姫の姿──。


間違いない。そらは確かに存在していた。

だけどその姿は、私にしか見えていなかった──?


信じられない。

信じたくもないけれど、ある一つの考えが脳裏に過ぎる。


「どうしたの? 大丈夫!?」

「瑛菜?」


心配そうに私に駆け寄る凛と桜太くん。

ポスターをそっと元に戻した私は、二人を振り切ってドアに向かって走り出した。


「ちょっ、瑛菜!?」

「ごめん……! 私行かなきゃいけない所があるの!」


凛達の引き留める声を背に、私は美術室を飛び出した。

この考えが正しいかどうかを、確かめるために──。




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