触れないキス
私以外の誰もそらを知らないということと、柚くんはもうこの世にいないんだという事実。

そこから考えられることは、たった一つ。

信じられないけれど、もうそれしか考えられない。


そらは、成長した柚くんの姿だったんだ──。


「きゃっ!」


足がもつれて、公園へ向かう坂道の途中で転んでしまった。

剥き出しになった膝や手から、真っ赤な血が滲む。


怪我をして以来、こんなに走ったことはなかった。

痛くて、鉛のように重い足は思うように動かない。

それでも、私は痛む足に鞭を打ってよろよろと立ち上がり、また走り出した。


頭の中には、そらの声がこだまする。


『俺、一人でいるのが好きだから』


なんで


『俺は何とも思わない。……同じようなものだから、俺自身』


なんで……


『俺に触るな』


何で、私は気付けなかったんだろう。

そらが発していたサインはいくつもあったのに──。

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