触れないキス
いつも私達が怒られていたのは、立花さんという当時30代前半だった看護師さん。

すごく親切で話しやすくて、普段は優しいけど怒る時は容赦なかった。


外で“あるモノ”を探すのに夢中で夕飯の時間になっても病室に戻らなかった時とか、こっぴどく怒られたっけ。

でもその次の日、柚くんはいくら探しても見つからなかったそれを持って、私の病室にやってきた。


「昨日は怒られちゃってゴメンね」と言いながら柚くんが差し出したモノは、四つ葉のクローバー。


「見つけたの!?」

「うん。さっき庭で偶然見つけたから、瑛菜ちゃんにあげるよ」


にっこり笑ってそう言った柚くんの手は、少し土で汚れていて。

偶然見つけたなんて、嘘だってバレバレだったよ。


“四つ葉のクローバーは幸せになれるお守り”って信じてた私のために、柚くんは一生懸命探してくれたんだよね。

すごく嬉しくて、私はそのクローバーを本に挟んでずっと持ち歩いていた。


柚くんは本当に優しくて、私にとっては王子様みたいな人だったんだ。

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