触れないキス
「ずっとそう想い続けてたら、奇跡が起きた」

「奇跡……?」

「神様がチャンスをくれたんだよ。キミに真実を告げて、昔交わした約束を果たすチャンスを」


“絶対、また会おうね”という、あの約束を……?


「……そう、かもしれないね」


こんな奇跡は、神様がプレゼントしてくれたとしか思えない。


「始業式の日、気がついたらこの制服を着て校門の前に立ってたから、本当に信じられなくて。

身長も体格も、声も違う。これが高校生の自分なんだなって、すごく感慨深かった。高校生活を味わってみたくて授業まで受けてみたしね」


クスッと笑う柚くんに、私も少しだけ笑みがこぼれる。

あの頃の面影を感じさせる無邪気な微笑みに、ほんの一時の安らぎをもらった気がした。


ふいに、柚くんは真面目な顔に戻って言う。


「もう一つの奇跡は、瑛菜ちゃんが俺に気付いてくれたこと」

「あ……」

「最初は驚いたよ。俺の姿なんて誰にも見えてないと思ってたから。だから名前を聞かれた時はどうしようか困った。いきなり柚希だなんて言えないし」


『……そら』と答えた、あの時の戸惑ったような柚くんの様子を思い出す。

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