触れないキス
「どうして、“そら”だったの?」


単純な疑問を尋ねると、柚くんは花火の煙が残る夜空を指差して、

「俺は空へ還るべき存在だから」と言って、微笑んだ。


「キミが気付いてくれたことはすごく嬉しかったよ。でも、もし他の人が見てたら、キミは一人で喋ってる変な人に思われるだろ。
だから突き放した。性格も変えて冷たくすれば、すぐに離れていくだろうって思ったから」


柚くんはまた悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「なかなかの演技派だっただろ」

「ふふ……うん、すっかり騙された」

「“俺”って呼び方も身に付いちゃったしね」


目尻を拭いながら笑うと、柚くんは再び真剣な表情で私を見つめる。


「おかげで真実も伝えることが出来なくなったけど、逆にこれで諦めてくれるかなって思った。“もうあの頃の柚希はいないんだ”って、キミが見切りをつけてくれたら……って」


──だけど、私は諦めることが出来なかった。

こうしている今だって、好きで好きでたまらない。


「……誤算だったね」

「あぁ。誤算はもう一つある」


首をかしげる私に、柚くんは切なげに微笑みかける。

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