触れないキス
「瑛菜ちゃんと話してるうちに、ずっとこうしていたいと思うようになってたんだ。
そんなこと出来るわけないし、こんなこと続けてちゃいけないのに、俺は……」


その続きを言うのをぐっと堪えるように、柚くんはまた目を伏せて下唇を噛んだ。


私だって同じだよ?

二人きりで過ごす、あの愛しい時間が止まってほしいと、何度願っただろう。


「でも、瑛菜ちゃんと人魚姫の話をした時……キミが俺に触れようとした時、やっぱりこのままじゃいけないって思った」


だからあの時、私に『もう関わるな』って言ったんだね。

そんな想いを抱えていたなんて、私は全然気付けなかったよ……。


「他の人に抱きしめられてるところを見た時も、しっかり思い知らされたよ。キミの隣にいるべき人は、俺なんかじゃないんだって。
俺には抱きしめることも出来ないし、涙を拭ってやることも出来ないんだから──」


悔しそうに眉根を寄せる柚くんに、私はまた瞼の裏が熱くなる。


「さっき、キミは『はっきり言って』って言ったけど、嘘でも言えなかったよ。
キミのことが嫌いだなんて、言えるわけない」

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