触れないキス
せきを切ったように涙が溢れた。

“嫌い”と言われた方が、もしかしたら楽だったかもしれない。


「でも、瑛菜ちゃんが告白してくれたことはすごく嬉しかったんだ。こんな俺のことを、二度も好きになってくれたってことだから。……本当にありがとう」


柚くんは笑う。

『もう、それだけで十分だ』と、自分に言い聞かせるように呟いて。


──十分、なんかじゃないよね?

もっとやりたかったこと、いっぱいあるでしょう?

もっと泣きたいはずでしょう?

私はそんなふうに綺麗に笑えないよ。


「私は……」


枯れることを知らない涙が頬を伝う。

また顔をぐしゃぐしゃにして、柚くんに手を伸ばした。


「私は……柚くんじゃなきゃダメだよ……!」


触れられない。

それでも伝わってくる柚くんの温もりをそっと抱きしめる。


「どうして……一緒にいられないの……っ!?」


──神様。

こんな奇跡を起こしてくれるなら、どうして柚くんの病気を治してくれなかったの?

私の足なんか治してくれなくたっていい。

柚くんに、未来をプレゼントしてほしかった──。

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