触れないキス
「立花さんには強がって、格好つけたことばっかり言ってたけど……本当は嫌だったし、恐かった。
瑛菜ちゃんと逢えなくなることが、死ぬことよりも恐かった」


私の知らないところで、柚くんはこんなにも苦しんでいた……

あんなに小さな身体で、必死に耐えていたんだね。


「一緒に大人になりたかったし、もう一度、キミに触れたかった。キミの隣にいるのは……俺でありたかった」

「ゆ、ずく……っ」


ポロリ、ぽろりと

私達の涙と、叶うことのない願いが零れていく。

こんなに近くに感じるのに、触れることすら出来ない。


──私達は、一緒にはいられない。



ふいに、柚くんを抱きしめていたはずの私の腕を、涼しい夜風がすり抜ける。

顔を上げると、柚くんは私から少し身体を離して、涙を伝わせながらも微笑んでいた。

泣き顔さえも綺麗で、こんな時にまで見惚れてしまう。


「……俺、人魚姫の本当の結末を話しただろ?」


突然どうしたんだろうと思いながらも、私は涙を拭ってこくりと頷いた。

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