触れないキス
「実は、ほんの少しだけ付け加えなきゃいけないことがあるんだ」

「え?」

「人魚姫は海に身を投げた後、空気の娘達の仲間になるんだよ」

「空気の娘……」

「そう。空気の娘も魂を持たないものなんだけど、300年良い行いをすれば、天国へ行くための魂を持つことが出来るんだって」


柚くんは、穏やかで優しい笑みを浮かべる。

ただ悲しくて寂しいだけの終わりじゃないんだよ、と言うように。


「だからきっと、人魚姫は空気中に留まりながら、ずっと王子を見守ってたんじゃないかって思うんだ」


“人魚姫と似たようなものだから、俺自身”

あぁ、あの時の言葉の意味がやっとわかった……。


「俺も、これからもずっと瑛菜ちゃんを見守り続けるよ」


柚くんの手が、私の頬に触れるように伸ばされる。

また溢れ出した私の涙が、柚くんの手をすり抜けて地面を濡らす。


「瑛菜ちゃんが大好きな人と出逢って、結婚して、可愛いお母さんになって……。誰よりも幸せになるのを、ちゃんと見守ってるから」

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