触れないキス
そんなこと言わないで──。

柚くん以外の人を好きになんてなれない。

なりたくもない……!


「私、無理だよ……! 柚くんがいないのに、幸せになんて……」


こんなこと言っても仕方ないってわかってる。

だけど今の私には、柚くん以外の誰かとの未来なんてまったく想像出来なかった。


「──大丈夫だよ」


柚くんは、泣きじゃくる私のおでこと彼のおでこをくっつけるようにして、優しく囁く。


「俺はずっと瑛菜ちゃんの心の中にいる。誰よりも一番キミの近くにいるよ」


それは、締め付けられた心をゆるりと解き放ってくれる、優しいおまじないのようだった。


「俺はダメだったけど、代わりに瑛菜ちゃんが夢を叶えて。それで──幸せになって」


お互い将来の夢を叶えようと、指切りをして約束したあの日が蘇る。


そうだ……私にはやらなきゃいけないことがあるんだ。

柚くんのために、私に出来ることはまだ残ってる。

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