触れないキス
坂道を登ったバスから降りて、

もうきっと着るのも最後だろう制服のスカートを揺らしながら、私はあの場所へ向かった。

卒業証書と、大きな紙袋を持って。

そこには相変わらず緑の絨毯が敷かれていて、天気の良い今日は遠くの海も見渡せる。


「今日で私も高校卒業したよ。……柚くん」


小さな墓石の前にしゃがんで両手を合わせながら、この場所に眠る柚くんに語りかけるように呟いた。

彼が生きていたら、きっと同じ卒業証書を持って、笑顔で記念写真を撮りまくってたんだろうな。

そんな図を想像すると、思わず笑みがこぼれる。


柚くんが私の前から姿を消してから約1年半、私は一ヶ月に一度はお参りをしに来ている。

ここへ来ると、すぐ近くに柚くんがいるような気持ちになれるんだ。


あの日以来、不思議なことに私の足の後遺症は少し良くなっていた。

もしかしたら、柚くんが起こした奇跡なのかもね。

そして、不思議なことはもう一つ。

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