触れないキス
「じゃーん! 美術室から持ってきちゃった」


ガサッと紙袋から取り出したのは、人魚姫の絵が描かれたポスターボード。

柚くんの姿は幻だったはずなのに、描いていた絵だけは残っていたんだ。

夜空に煌めく花火の絵も、青空に舞う蝶々の絵も。

柚くんがあの時を“生きていた”証が、今も、これからも残っている。


「私が……ちゃんと夢を叶えるから」


小さな雑貨屋を開いて、この絵を飾るの。

柚くんが描いたこの素敵な絵を、たくさんの人に見てもらえるように。

柚くんの代わりに、絵の勉強だってするんだから。


「私、自分なりに頑張るから……ちゃんと見ててね?」


そう言って顔を上げると、柔らかな風が私の髪の毛だけをフワリとなびかせた。

まるで柚くんが、そこにいるかのようだった。


──ううん、きっとキミはいつもそばにいるんだよね。

そしてきっと“頑張れ”って言ってくれてる。


「……ありがと。柚くん」


私は夕暮れを迎える空に向かって声を投げかけ、

在校生から貰った小さな小さな花束を供えて、笑顔でその場を後にした。




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