触れないキス
○゜。
あれから何十年の月日が流れたのか──…
柚くんのもとで合わせ続けた手も皺くちゃになり、私にもとうとうお迎えが来るようです。
先立った夫が、『そろそろ連れていってもいいかい』と、夢の中で微笑んでいましたから。
まっさらなベッドの上から動けない私のもとに、今日も娘と孫が会いに来てくれました。
「おばあちゃん、早く良くなってね!」
「ありがとう」
屈託なく笑う愛おしい孫に、私も笑顔を見せる。
娘は私の命がもう長くないことをわかっていると思うけれど、
孫には最後までそんなことを感じさせないようにしたいのです。
私も柚くんのように、立派に生涯を終えたい。
優しい夫と可愛い子供にも恵まれ、孫の顔まで見ることが出来ました。
孫はこの春、私が柚くんと初めて出逢った時と同じ、小学3年生になります。
あいにく、病に侵された私はもうこの病院から出ることは叶いませんが、元気一杯に過ごしてほしいと願う毎日です。