触れないキス
「絵を描く仕事かぁ……それも柚くんらしい!」

「だから将来はもっと絵の勉強をして、この本に載ってるような絵を描きたいんだ。絵本作家とかもいいな」


そう言って、柚くんは持っていた『人魚姫』の本に載っている絵を指差した。

人間や陸の生活に憧れる、幻想的で綺麗な人魚姫の姿。

それを見つめる柚くんの瞳もキラキラと輝いて、大きな希望に満ちているように見えた。


「柚くんならきっとなれるよ!」

「ありがと、瑛菜ちゃん」


根拠なんてどこにもない。

でも、柚くんなら本当に夢を実現出来るような気がした。


「じゃあ、約束!」


私は小指を立てて柚くんの目の前に差し出した。


「私が雑貨屋さんになって、柚くんの描いた絵を飾るよ! ねっ?」


一瞬キョトンとした柚くんは、ふふっと笑って自分の小指を絡める。


「……うん、約束。お互い頑張ろうね」

「うん!」

「それと……絶対、また会おうね」



柚くんはそう約束してくれた。

嬉しくて、嬉しくて

これで終わりじゃないんだって小さな希望が胸を奮わせる。


何故だか少し泣きそうになりながら、柚くんの体温が伝わる小指に力を込め、

私は何度も何度も頷いた。

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