触れないキス

翌日、お世話になった立花さんを始めとする看護師さん達に見送られ、私は無事退院した。

その看護師さん達の陰に隠れるようにして柚くんが笑って手を振っていた姿は、今でもしっかり目に焼き付いている。


当然寂しかったけれど、不思議と不安はなかった。

絶対また会おうって約束したから。

毎日のようには会えないけど、これからも検査はあるわけだし、お見舞いに来ればいつでも会える。

その時のために頑張ろう!


病院から家へと向かう車に揺られながら、そう思うことで涙をぐっと堪えていた。



──だけど、そんな私の考えは甘かったんだとすぐに思い知ることになる。

退院したからと言って、私の足はまだ治ったわけではない。

むしろ、ここからが大変だったのだ。


家に帰ってくれば病院とは全く違う生活になる。

松葉杖をついての生活はとにかく不便で、階段の上り下りもやっと。

徐々にギプスを外せるようになっても、しばらく動かしていなかった足は、驚くほどガチガチに固まっていて全く動かない。

リハビリの毎日で、とても簡単にお見舞いに行けるような状態ではなかった。

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