触れないキス

記憶の中のキミ



「皆おはよう! 元気だったかー?」


体育会系の担任が教室に入ると同時に張り切った声を上げ、クラスの皆が「は~い」と怠そうに返事をする。


「なんだその返事ー。もっとシャキッとしろ、シャキッと!」

「「は~い」」

「ダメだこりゃ」


そんな担任とクラスメイトとのやり取りに笑いが零れる、平和な新学期の朝。

今日から私、牧原 瑛菜(マキハラ エナ)は高校2年生になった。

仲の良いクラスメイトと担任に恵まれて、何の問題もなく平凡な毎日を送っている。


私の席は、窓際の一番後ろ。

机に頬杖を付いて、二階の教室から窓の外に視線を移し、淡いピンク色の花びらがひらひらと舞い落ちる、風情のある景色を眺める。

小春日和の今日は、爽やかな青空がより一層ピンク色を際立たせていた。



温かく眩しい春の日差しは、私の遠い記憶を呼び起こす。

遠いけれど、決して色褪せることのない

優しくて、かけがえのない記憶を──。


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