触れないキス
──ところが、そんな私に転機が訪れることになる。
今日から始まる選択授業。
私は凛と画材道具や教科書を持って美術室に向かっていた。
「よぉ、二人も美術か」
「わぁ! 桜太くん!?」
「げっ!」
並んで歩く私達の間に、桜太(オウタ)くんが後ろから割って入ってきた。
ワックスで無造作にセットされた髪は、この春休み中に少し色が明るくなっている。
そんな桜太くんの登場に、凛はあからさまに嫌そうな顔をする。
「何で絵心の欠けらもないあんたが美術なんかとってんの!?」
「美術だけ人数少なくて移動させられたんだよ」
「ぶはっ! だっさー」
「うるせーな。オールマイティの俺なら何だって出来るからいいんだよ」
こうやって言い合う凛と桜太くんは、幼稚園の頃からの幼なじみ。
そこへ中学で一緒になった私が入り込むカタチになり、見事に高校のクラスも3人一緒になった。
「何でも出来るとか言って、あんたが得意なのはサッカーとナンパだけでしょーが」
「元気しか取り柄のないお前に言われたかないね」