触れないキス
それを凜はナンパと言うけど、別に誰とも付き合っていないし、ただ相手の反応を見て面白がってるだけのような気もする。

まぁ、それはそれでタチが悪いか。


「ったく……、アイツの顔を見ないで過ごせると思ってた唯一の時間が……」

「そういう運命だって思うしかないんじゃない? ほら、一生付き合わなきゃいけない持病みたいなモンでさ」

「一生なんか絶対付き合わん!!」


ムキーッと憤慨する凜は気にせず、私は呑気にあははと笑っていた。

だって、凜はきっと桜太くんのことが好きだから。

そして、それは桜太くんも同じだと思う。


お互いに悪口を言い合ってケンカばっかりしているけど、二人を一番近くで見てきた私には分かる。

桜太くんが女子と話しているところを、凜が切なそうに眺めていることも、

凜が笑っているところを、桜太くんが愛しそうに見つめていることも──。


素直じゃないんだよなぁ、二人とも。

近くて遠い二人の距離はもどかしいけれど、そんな甘酸っぱい恋模様が、私には少し羨ましくもあった。

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