触れないキス
美術室に入ると、もう半数くらいの人が席についていた。


「とりあえずクラスごと、名簿順に座っとくれや~」


という、優しそうなお爺さん先生の声に従って移動する。

名簿が離れている私と凜は、「また後で」と言ってそれぞれ席についた。


二人か三人用の長い木の机が四列あり、私の席は教卓から見て一番左の壁際だ。

足元に荷物を置いて、他のクラスの人達の様子を眺める。


知っている友達と目が合って手を振ったりしていると。

私からは離れた窓際の一番後ろの席に、一人静かに窓の外を眺めて座っている男子に気が付いた。


あれ? あの人……

ここからだと顔がよく見えないけれど、あの人はもしかして……。


「皆揃ったかい? それじゃ始めますよ~」


先生の声に反応して、その男子生徒が前を向いた。

あ、やっぱり……

この間校門の辺りに立っていた、新学期早々、遅刻してきた美男子だ。


でも、ちょっと待って──。

彼の顔をしっかり確認した瞬間、ドクンと大きく心臓が波打った。

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