触れないキス
キミは、誰?
彼の姿を見つけた日から、私は周りを気にして校内を歩くようになっていた。
だけど一度も行き会わない。
週に一回ある美術の時間にしか、私は彼を見ることは出来なかった。
美術室に入ると真っ先に彼の姿を探すのが、もう習慣になっている。
でも探すまでもないか……。彼は必ず私よりも先に来ていて、すでに準備を終わらせて定位置にいるんだから。
美術の前にも授業はあるのに、どうしてそんなに早く来れるのか謎だけど。
彼は誰と話すこともなく、いつも一人静かに座って外を眺めている。
ただそれだけで絵になるような、目を惹きつけるような、不思議なオーラを放っていた。
彼に必ず会えるこの美術の時間は、嬉しいような安心するような……
私にとって特別な時間になっていたのだった。
一番知りたいのはもちろん名前なのだけれど。
美術のおじいちゃん先生は、皆が作業をし始めてから各テーブルを回って出席を確認するというやり方をとっている。
だから、結構離れている彼の名前なんて聞こえるはずもない。
黙々と何かを描いている彼を、こうやってただチラチラと眺めるだけで時間は過ぎていく。