触れないキス
「瑛菜は今日もポスターやってくの?」
「あ、うん!」
「そっか。あともうちょっとだし頑張ってね」
部活へ行く凛に手を振る私は、今日もポスター描きを口実に美術室へ向かう。
よっぽど絵を描くのが好きなのか、そらはいつも美術室にいる。
だから、私は自分が好きな時に会いに行くんだ。
──そう、私はただそらに会いたかった。
会っても特別なことは話さないし、冷たい態度も相変わらず。
だけど、そらが私に“来るな”と言うことはない。
だから私は会いに行く。
好きかどうかはまだわからないけれど、もっと知りたいの……彼のことが。
このことは私だけの秘密にしておきたいから、今はまだ内緒にしておくつもり。
ゴメンね、凛。
美術室の扉を開けると、そらはいつも私をチラリと見るだけですぐに目線を落とし、また絵を描き始める。
素っ気ない態度にはもう慣れっこで、私は自分のポスターボードを取るとそらに近付く。
斜め前だった座る位置は、いつの間にかそらの真ん前になっていた。