触れないキス
少し色素の薄い、茶色の瞳がとても綺麗で、

捕らわれたように動けなくなっている私に、彼は悪戯っぽく口角を上げた。


「それで、単位落としたら面白いから」

「は……!?」


な、なんだそりゃー!


「そっ、そんなことにはなりません!」


勝手にドキドキしてしまった自分が恥ずかしくて、絵の具やら筆やらを荒っぽく取り出していると。

忙しない私を見て、そらは僅かに笑みをこぼしていた。


そらは最近笑みを見せてくれる瞬間が増えた。

笑顔と言えるほどニコッとはしないけれど、たまに見せる柔らかな表情が、私の胸をキュンとさせる。

それが反則なんだよなぁ……。


自分のことを多く語ってくれないそらは、とにかくミステリアスだ。

ここへも頻繁には通えないし、もちろん美術の時間も話せないし、

私が彼のことで知っていることはほぼゼロに等しい。


しかもなんと、スマホも携帯も持っていないというから驚愕!!

今時なんて希少な人だろう!

だから連絡の取りようもないし、未だに彼の多くが謎に包まれたままなのだ。

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