触れないキス
昔お祖父さんが書道の師範をしていたらしい凛は、たしかに今更習わなくても達筆だ。

彼女はその綺麗な字でプリントに名前を書きながら、「それに」と続ける。


「瑛菜が一緒じゃなきゃ何やったってツマンナイもん」


そう言ってニコニコと笑い、早速美術の欄に用紙に丸をしていた。

凜の即決っぷりはここでも健在で、思わず笑ってしまう。

他人が聞いたら金魚のフンみたいな理由だと思うかもしれないけど、私にとっては嬉しかった。


凛とは中学の頃から今まで運良くクラスが一緒で、とても大切な友達の一人。

マイペースでのほほんとしてる私を、お気楽で活発な凛がいつも引っ張っていってくれて。

逆に時たま暴走する凛を私が止めるという、うまくバランスが取れた関係だと思っている。

価値観も似ていて気が合って、二人でいるのが一番ラクだし楽しいんだ。


私だけじゃなくて、凛も同じように思ってくれているんだろう。

口元を緩ませながら、私もプリントに丸をつけた。


「あ、数学の課題何もやってないや」

「えぇ、休み明け小テストやるって言ってたじゃん! 凛、危機感なさすぎ」

「だって休みは休むためにあるんだよ? なのに何で勉強しなくちゃいけないのさ」

「それで課題を写させるこっちの身にもなってよ!」

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