触れないキス
数少ない情報の一つは、そらはこの春に県外から転校してきたということ。

だから、私が彼の存在を知らなかったことにも納得。

始業式の日あの場所にいたのも、別に遅刻ではなかったのかもしれない……と思うことにした。


「そらが前行ってた高校ってどんな感じ?」

「……高校なんて、どこも似たようなもんだろ」


絵を描きながら答えるそらは、やっぱり詳しくは教えてくれない。

それでも気にしないで質問し続けてしまえ。


「そこでも部活とかやってなかったの?」

「あぁ」

「そっか……」


やっぱりダメだ、会話が続かない~!

でもなんとか話を広げたくて、気付けば自分のことを話していた。


「私もずっと帰宅部だけど、足が良ければなぁ……」


そう言うと、不意に端正な顔が上がってじっと見つめられる。

ひとつトクンと音を立てる、私の心臓。


「足……?」

「あ、うん。昔事故に遭って怪我してから、激しい運動すると痛くてダメなの」


8年経った今も、後遺症は完全には無くならない。

日常生活に支障はないからいいのだけど。

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