触れないキス
「あの、そらは先に帰ってもらっても──」

「俺も傘持ってないから」


私の言葉を遮ったそらは、目を合わさないままぽつりと言う。


「もう少し、こうしてよ」


──それは、自惚れかもしれないけど、そらが初めて私を必要としてくれているような言葉に思えて。

緩みそうになる唇を必死で噛み締め、私はコクコクと頷いた。


雨の音をBGMに時々話して、また黙って……

その繰り返しで時間は過ぎていく。

黙っている間は、バレないようにそらが描いている絵と、そらを交互に見ていた。



……私ね、やっぱりそらのことが好きだと思うんだ。

ほんの一瞬笑った顔が見れただけで、飛び上がるくらい嬉しくて

何気ない仕草さえも素敵だなと思って……。


その声にも、表情にも、

そらの一挙一動にドキドキして、見惚れてしまう。

そして、ずっとこうして一緒にいたいと思う。

これは、間違いなく──恋。


柚くんと重ねて見てしまう時もある。

でも、私が今一番愛されたいと思うのは、目の前にいる彼だった。

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