触れないキス

「だいぶ小降りになったな。……おい?」

「──えっ? あっ、うん、そうだね!」


ヤバいヤバい、ボーッとしてた!

笑ってごまかすけれど、そらは怪訝そうに少し首をかしげて私の顔を覗き込んでいる。

わぁぁ、顔が近いよ!

これだけのことで耳まで熱くなる単純な自分に呆れつつ、窓と壁に掛けられた時計に目をやる。


「雨上がったんだ……って、えっ!? もうこんな時間!?」


いつの間にか外は暗くなっている。

そんなことにも気付かないくらい、私はそらのことばかりに夢中になってたらしい。


「今頃気付いたのかよ? その妄想癖は危ないぞ」

「妄想してたわけじゃありません!」


正直に『そらのことを考えてました~』なんて言えるはずもないけれど。


「そろそろ帰るぞ」

「あ、うん……!」


あぁ、今日も終わっちゃうんだな……。

こんなに長く居座ってたくせにまだ名残惜しいよ。


準備室の先生の机の上に出来上がったポスターを置いて戻ると。

美術室のドアの手前で何かを見ていたそらが、私に向かって予想外のことを口にした。

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