触れないキス
「……送るか」

「えっ!?」

「襲われてもいいならいいけど」


なんだか物騒なことを言うそらが指差す先にあるのは、“不審者に注意!”と書かれた貼り紙。

そういえば担任も『最近、下校途中に不審者が現れたという情報があったから気をつけろ』と言ってたっけ……。

ぞぞっと背筋に悪寒が走り、身を固くしていると。


「じゃあな」

「あ! ま、待って!」


スタスタと先を行くそらを、急いで追い掛けた。



そんなに時間が遅いわけでもないけれど、もう校舎の中にもほとんど生徒はいなかった。

そらと話す時は、なぜか必ずと言っていいほど他に人がいない。

だから、私はそらのことを独り占めしているような気がして、優越感に浸ってしまうんだ。


スラッと手足が長くて、スタイルのいいそらの隣をドキドキしながら同じ速度で歩く。

やっぱり会話はほとんどないのだけど。

普段は一人の帰り道を二人で歩いているだけで、いつもの景色がまったく違って見えた。

星も月も見えない真っ暗な夜道でも、私には色付いて輝いて見えるから不思議だ。

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