触れないキス

「ったく、何で俺が女装なんかやらなきゃいけねーんだ! 一生の汚点だぜ……」


なんとかメイクをし終わった桜太くんは、愚痴を言いながらスカートを履かされた足を大股に開き、腕を組んで椅子に座っていた。

でもやっぱりもとが女顔だからか、メイクが意外と似合っている。


「でも桜太くんすごい可愛いよ? 男子に惚れられちゃうかも」

「あたしはさっきのピエロの方が……よかったな……くくく」

「瑛菜、それフォローになってないぞ。つーか、凛はさっきから笑い過ぎなんだよ!」


そしてまたギャーギャーと言い合う二人を、私はやれやれと呆れた笑いを漏らしながら見ていた。


やがて一般公開が始まると他校の女子高生も大勢やってきて、WKBも大盛況だ。


「何で女ってこんなに女装が好きなんだろな……」


なんて陰では愚痴りながらも、桜太くんはホールに出るとコロッと表情を変えて、にこやかに接客している。

さっきまで悪態をつきまくっていた凛だけど、女の子達と楽しそうに話す桜太くんをやっぱり不安げな表情で見ていた。

ほら言わんこっちゃない。

あんまり女の子を寄せつけないためにはやっぱり……。

< 66 / 134 >

この作品をシェア

pagetop