触れないキス
愛しい思い出
*
小学3年生になったばかりの、麗らかな春の日。
消毒薬の匂いが鼻をつく、真っ白で清潔な長い廊下で
私は彼に出逢った。
窓から射し込む春の日差しに照らされた真っ白な服と、
同じくらい白くて綺麗な肌、切れ長で大きな瞳はキラキラと輝いていて……
まるで天使みたいな姿に、車椅子に乗った私はただボーッと見つめるだけだった。
そうしたら彼は私に気付いて、「こんにちは」って、これまた透き通るような声で挨拶をしてくれたんだ。
「こっ……こ、ここんにちは!」
ビックリしたあたしはしどろもどろで、咬みまくりながら90度のお辞儀をした。
その時彼は、あたしを見てぷっと吹き出すと、あろうことか「ニワトリみたい」と言ったのだった。