触れないキス
「汚い消しゴム貸してくれたり、『太るぞ』って言いながら、あたしの好きなメロンパン買ってきてくれたり、部活で遅くなった時は何も言わずに待っててくれたり……。

実は優しいとこもいっぱいある、いいヤツなんだ」


凛──やっと、本音を語ってくれたね。


「でもホントお節介なんだよね~! やっとアイツから離れられると思うと清々するよ」

「じゃあ、何で泣いてるの?」


凛の大きな瞳からは、いつの間にか透明な雫がこぼれ落ちていた。


「……っ、泣いてなんか……」

「もう、バレバレの嘘つかないでよね」


私はポケットからハンカチを取り出して、手の甲で涙を拭う凛に差し出した。


「今凛が言ったこと、全部桜太くんの好きなところでしょ?」


凛からの桜太くんに対する言葉は、悪口でさえも愛情に溢れているように思えるよ。

それはきっと、私の気のせいなんかじゃない。


「私ね、好きな人がいるんだ。桜太くんじゃない、全然別の人」

「えっ……!?」


突然そんなことを言ったから驚いたんだろう。

ずっと俯いていた凛が、真っ赤になった目で私を見た。

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