触れないキス
これ以上確かめなくても、凛が桜太くんのことを好きだって気持ちはもう十分過ぎるほどわかってる。

とりあえず誤解を解かなければ。


「昨日のアレは、桜太くんがお酒飲んじゃったらしくて酔っ払ってただけなんだよ」

「酔っ払ってた!? でも、じゃあ何で瑛菜に……」


うーん……そこの部分は私が言うべきじゃないような気がするな。

『凛と間違えたんだ』って、ちゃんと桜太くんに謝ってもらわなきゃね。


「それは直接本人に聞きに行こう!」

「えっ!?」

「ついでに告白しちゃえ!」

「えぇーーっ!?」


我ながらかなり強引だと思うけれど。

こうでもしてキッカケを作らないと、絶対に二人は先に進まないだろうから。

ベンチから立ち上がった私は、凛と向き合ってまっすぐ目を見つめる。


「いい?凛。ちゃんと自分に正直になるんだよ。好きだって気持ちがあるのは恥ずかしくもないし、おかしなことでもない。持ってて当然のものなんだから」


「ね?」と言って微笑むと、凛にもようやく笑顔が戻った。

その赤い色をした澄んだ瞳を、柔らかに細めて。


「……うん。ありがと、瑛菜」


そう言って恥ずかしそうにはにかんだけれど、すごくいい顔をしていた。

凛はもう一歩前に進んでる。

もうきっと、大丈夫。

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