触れないキス
片付けを途中でほったらかしにしてきてしまったことを思い出し、私達は急いで教室へ戻った。

皆はもう体育館へ移動していて、今度はそちらへ向かって走る。


これから体育館でイベントが始まる。

発表の合間に桜太くんの姿をキョロキョロと探すけれど、全校生徒が集まる中では見付けられなかった。

お昼休みにようやく発見したものの、サッカー部の仲間といて話せそうにない。


「こりゃ後夜祭が始まる前しかチャンスはないかな……って、凛!?」


話し掛けようとすると、凛は急に桜太くんのもとに向かって歩き出した。


えっ、何!? どうするの、凛!?

サッカー部員が集まる所へずんずんと歩みを進めていく凛を、私は挙動不審な動きをしながら後ろから見ているしかない。

壁に寄り掛かっていた桜太くんは、凛に気付いて怪訝そうな顔をする。


「凛? 何だよ」

「……アンタに話があんの」


表情は見えないけれど、ギュッと握りしめた手から凛の緊張が伝わってくる。

私も同じようにドキドキしながら、その後ろ姿を見守っていた。

そして、凛は桜太くんをまっすぐ見つめて、息を吸い込む。

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