触れないキス
後夜祭直前。
オレンジから紺色に染まりゆく校庭は、全校生徒が集まって熱い陽射しが戻ってきたかのような熱気に包まれていた。
空には一番星が輝き、ぬるい風に乗って鼻をくすぐる夏の匂いが夜の訪れを感じさせる。
私は遠巻きに盛り上がる皆と、道着を身につけてステージの下にスタンバイしている凛を眺めていた。
いよいよこれから、後夜祭のスタートを飾る一大イベントが始まる。
そして、私の隣には桜太くんが。
「凛、緊張してるだろうね」
「まぁ大丈夫だろ。あいつ運だけは強そうだし」
相変わらず凛が聞いたら怒りそうなことを言う桜太くんだけど、
凛を見つめるその目は誰よりも真剣だった。
そんな桜太くんは、まだ凛の一世一代の決意も、昨日のことも知らない。
「……昨日さ、桜太くん酔っ払って私に抱きついてきたんだよね」
「げっ、マジ!? ごめん」
「それはもういいんだけど。それより、あの時私のことを『凛』って呼んでたよ」
「──はっ!?」
ギョッとした顔で私をバッと勢い良く見下ろす桜太くん。
うん、予想通りの反応。