触れないキス
「んなワケねーだろ!」

「んなワケあるっ!!」


珍しく声を荒げて言い返した私に驚いたらしく、桜太くんは押し黙る。


「ごまかしたってダメだよ? 私ずっと気付いてたんだから! 桜太くんの気持ちも、凛の気持ちも」


不意をつかれたように、桜太くんは私から視線を逸らした。

その頬はほんの少し赤くなっているように見える。


「もう、二人ともバレバレなくせに意地張っちゃって。別に隠すことないのに」

「……うるせーよ」


小さくそう呟いてプイッとそっぽを向く桜太くんがなんだか可愛く思えて、私はふふっと笑いをこぼした。


その時、今まで騒がしかった生徒達の声が一斉に静まり返った。

私達もそれにならって口を閉じ、ステージを見上げる。


この日のために作られた野外ステージの上には、白い袴に身を包み、弓を持った凛々しい凛の姿がある。

──いよいよだ。

一番緊張しているのは凛達なのに、見ている私までドキドキする鼓動を抑えられない。

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