触れないキス
試合の時と同じように弓構え、打起し、引分けの順に弓を引く。

違うのは火が付けられた矢だけ。


さっきまでの盛り上がりが嘘のようにしんと静まり返る校庭。

祈るような気持ちで、その場の全員が凛達に注目していた。


──頑張れ、凛。

そう想いを込めた瞬間。


ビィン……と綺麗に弦が鳴る音

弓から離れ、一直線に飛んでいく矢

そして、ピラミッドのように積み上げられた使用済の大道具の山に、

熱い、熱い、真っ赤な炎が燃え上がった。


「やったぁ……!!」


私の声は、わぁーっと上がる歓声に掻き消された。

ステージ上の凛は先輩達と抱き合って、最高の笑顔を見せている。

うぅ……なんだか私の方が泣きそう。


「すごい! 凛カッコイイ!!」

「あんなでかい的なんだから当たって当然だろ」


桜太くんのTシャツの裾を引っ張りながらはしゃぐ私に反して、桜太くんはしれっと言い放つ。

それでも嬉しそうに綻んでいる横顔を見たら、私も嬉しくなった。

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