触れないキス
「……桜太くん」

「んー?」

「凛は本当に真剣だから、ちゃんと話聞いてあげてね」


嬉し涙を拭う凛を横目にそう言うと、桜太くんは彼女を見つめたままふっと笑った。


「俺さ、今まで数えきれないくらい告られてんだよね」

「へ?」

「もし告白だったら聞き飽きちまったからなー」

「はぁっ!?」


予想外の言葉に、今度は私が動揺する。

一瞬最悪の展開が思い浮かび、歩き出した桜太くんの背中に向かって「ちょっと!」と叫んだ。

──すると。


「だから、今回だけは俺から言ってやるよ」


桜太くん……!

振り返りざまの甘い笑顔に、不覚にも私がキュンとしてしまった。

桜太くんはジャージのポケットに手を突っ込んで、ステージから降りた凛のもとへと歩いていく。

その後ろ姿を、私は軽やかに胸を弾ませながら見送った。

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