君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。
「別に何も無いですよ。ただの思い出し笑いです。」

「月城さん、思い出し笑いは…。」

「変態、でしょ?」

言いかけた藤原さんの声を遮る様に、私が言って、それを聞いていた後輩が「よく出来ました。」と言った。
藤原さんが、とても楽しそうに笑った。

楽しそうに笑いながら、藤原さんは私をからかう様に言った。

「知ってて尚の思い出し笑いかぁ。
そんな性癖が…。」

「ありませんから。」

藤原さんは、何も変わらない。変わらないでいてくれる。
失くしていくばっかりの日々だったけれど、変わらない物もあるのだと、彼を見ていると安心出来た。
もうすぐクリスマスが来るのに、藤原さんの笑顔はやっぱり、春を思い出させた。

夕方五時のチャイムが鳴って、後輩は足早にスタッフルームに向かう。
今から一時間程度は、私と藤原さんだけで店を回さなければいけない。
一人じゃなくて良かったなって思いながら藤原さんを見ると、私の視線に気付いた彼が、にこりと笑った。
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