君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。
夜くんへの怒りや悲しみが、まだ私の中に沢山あった頃は、気が張り詰めていたのか、「私は平気」だと、自分を強く見せる事に必死だった。
だけど、素直な気持ちになると、いくらでも弱音は吐けた。

どこかで夜くんは呼吸を繰り返す。
その事実だけで満たされる程、強くはなれないけれど、受け入れる事なら出来た。

二人で過ごした過去は、追い付けない場所へいってしまった。
彼が犯した過ちを、その全てを許す事は出来ないけれど、彼の中にあった真意を受け入れる事が出来れば、夜くんの苦しみも、私の悲しみも、やがては昇華出来るだろう。

日々、私は納得していく事が増えていった。
もう手も繋げない事。キスも出来ない事。愛しい名前を呼べない事。
どんなに願っても、あなたの声は聴こえない事。
そしてもう二度と、愛していると伝えられない事を。
言わなくちゃいけなかった事が、成就出来ないまま、飲み込む事が増えてしまった。
あなたに会えない日々の中で、思い出は色褪せて、いつかあなたの名前だけが残る。
名前だけは残って欲しいと願う。

受け入れなきゃいけない事実。
受け入れられない事実。
もう、あなたの隣には居られないという事が、日々私を責めたてた。

どんなに悟ったふりをしてみても、今でも頭を悩ませる事は変わらない。
だけど答えは彼の中にあり、それら全てを抱えて、彼はこの夜を越えるのだろう。
< 147 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop