君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。
暗くなった道を歩きながら、虚無感に襲われないように、両手をギュッと擦り合わせる。

私が手を擦り合わせていると、夜くんは決まって私の掌を取り、自分のコートのポケットにそっと入れてくれた。
かじかんだ指先を温めてくれたコートのポケット。
無理矢理入れた二つの掌が、逃げ場を失い、絡み合う。

「輪廻の手、冷たいね。」

「あったかいよ。」

「嘘すごく、冷たい。」

「あったかいよ。だって夜くんの手、あったかいから、私もあったかいの。」

「ん。だったら、輪廻がここに居て、俺は全部あったかい。」

夜くん。
今、あなたの傍に温かいと思える物があれば、私は救われる。
どうか独りで泣いたりしてないで。

夜くん。
あなたが居た世界は、こんなに、あったかいよ。
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