君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。
「あぁ、そうだ。そう言えばさ、ツッキー。」

「はい?」

「ツッキー」に反論するだけ無駄か、と話を振られた私は無意識に返事をする。

「昨日、彼氏来てたんだって?禁煙席二番に座ってた人でしょう?」

「えっ。美神さん、どうして知って…。」

「ハルちゃん情報。」

美神さんはチラリと藤原さんを見て、そう囁く。

「藤原さーん。美神さんに言ったんですかぁ?」

私は大して怒ってもいなかったけれど、わざと膨れっ面をして、藤原さんを見た。
藤原さんは申し訳なさそうに、だけど少しだけおどける様にして言った。

「あれ?いけなかった?
弥生ちゃんが『あの人かっこいー!』ってあんまり言うもんだから。
月城さんの彼氏だから駄目だよって教えてあげたんだ。」

「いや…、いけなくは無いですけど。
昨日は藤原さんに失礼な事しちゃったから、藤原さんはあんまり良い印象じゃないんじゃないかなって。」

「失礼な事って?」

私と藤原さんのやり取りを聞きながら、美神さんが興味深そうに私の顔を覗きこんでくる。

「えーっと…。」

昨日の事を美神さんに話そうか、迷っていると、藤原さんがさらりと言ってのけた。

「あぁ、大したことじゃないんだ。失礼だなんて思ってないし。気にしないでよ。」

「えー。超気になる。」

隠し事はんたーい!と、美神さんは拗ねた表情をした。

「月城さんは、とっても愛されてるって話だよ。」

にっこりと藤原さんは微笑んで、また麦茶を一口飲んだ。

美神さんは、「あんなイケメンに愛されるなんてズルイ。」とか言いながら、立ち上がり、エプロンを付け直した。

「じゃあ。休憩終わりだから、行くね。」

「あ、美神さん。休憩中に本当にすみませんでした。」

「いいえー。また今度ゆっくり彼氏の話聞かせてよ。お疲れ様ー。」

美神さんは悪戯っ子みたいな笑顔でバッグルームを出ていった。
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