君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。
バッグルームには私と藤原さんの二人だけになった。
ドーナツを渡すには今だと思ったけれど、どう切り出せば良いものか。
あれこれと考えていると、先に口を開いたのは、藤原さんだった。

「月城さん、忘れ物はもう取ったの?」

「えっ、あ、はいっ。」

忘れ物なんて無いから、私は少し焦ったけれど、藤原さんは私よりもバッグルームに入ってくるのは遅かった。
私は自分のロッカーを開けてもいないけれど、それを藤原さんに見られている事も無い。
今日は本当にタイミングが良いなぁと思った。

「そっか。だったらさ、途中まで一緒に帰ろう。もう暗くて危ないし、送るよ。」

「はい。ありがとうございます。」

いつもの私だったら断っていそうだけれど、今日は願ったり叶ったりだ。
私は素直に頷いて、店内とは逆のドアから、藤原さんと外に出た。
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